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1.10. 気管切開の一法あるのみ

しかりといへどもいはゆる一年半もまた徐々歩を移し来れり、もし一歩も進むことなければ一年半にあらずして不老不死なるを得ん。 即ち余が喉頭の腫物漸次発達して大に呼吸の促迫を起し来り夜間安眠すること能はず、乃ち堀内医師に謀る。 この時余は妻及び友人の勧誘に由り、一たび東京に返り更に下坂せんかと思へり。 堀内一診して曰く、これ危険極まれり、もしこのままにて汽車に御せば途中必ず窒息すべし、これを防ぐには気管切開の一法あるのみ、これ極て見やすき手術にて、気管恰好の処に穴を穿ち、更に銀管を挿入し、以て呼吸に備ふる法なりと。 妻独疑懼して決せず、急に電信もて余の従弟医博士浅川範彦を呼びこれに謀る。 範彦固より堀内と同案なり、更に当地伝染病研究所石神某と共に立会人となり、五月二十六日を以て堀内医院において切開を施し了はりて、その前方なる浅尾某の一室を借りて療養を加ふる事と為せり。

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