かくの如くに壺坂寺の段は、大隅太夫の十八番ともいふべき者にて、ために大入を占むる、是非一往せざるべからず、乃ち一日妻と共に往けり。 それ明楽座は人形といひ、人形遣といひ、到底文楽座の巧妙に及ばず、その他道具といひ総て及ばず。 しかるに午後二時三時の比より客衆続々詰懸け来り、遂に場内立錐の地を留めざる者は、此輩全くそれ以前の太夫を眼底に置かず、ただ大隈一人を聞くがためにかくは雑踏し来るなり。 これを以て言へば大隅一人にて優に文楽座の向を張り居れるといふべし。