三十三所霊験、順次段を逐て了はれり、竟に壺坂寺の段に至れり。 序幕は春子太夫影にて語り去り、既にして大隈太夫その相撲然たる肥大の体を掲げ来り、やがて彼の有名なる法師歌「夢が浮世か浮世が夢か」を唄ひ出し裊々絶へんと欲して絶へず、その沢市と里との噺の如き直ちにその人を現出したる如く、この間に大隅太夫なきなり。 ああ技此に至りて神なり、これ浄瑠璃か、これ噺耶、これ活劇耶、他人の浄瑠璃は浄瑠璃なり、大隅の浄瑠璃は事実その物なり。 かつ彼れは故さらに拍手喝采を博せんと欲するが如き態絶てなく、ただ自ら語り自ら研究して、自ら満足し自ら楽むが如き所、真に高尚上品にして、到底他碌々たる者と比すべきにあらず、ああこれ斯道の聖なり。