この故に暗殺はその是非を論ずべきにあらずして、ただその国社会において果して暗殺の必要を生じたること、これ甚哀しむべきなり。 人あるいは勢に乗じて鴟張して忌憚する所なし。 その悪を恣にすること明らかなるも、法律の公においていまだ把捉すべからず、彼れや自ら恃みて毫も顧みず、是において義に激する侠雄の徒起ちて天下のためにこれを刺す、これ洵に勢やむをえざるなり。 伊庭の事、けだしかく信じたるのみ。 此を以て更に一歩を進めてこれを論ぜば、文運大に開け法律用なくして、道徳独り力を逞しくして、乃ち一国人々皆君子なる暁は知らず、いやしくも社会の制裁力微弱なる時代にありては、悪を懲らし禍を窒ぐにおいて、暗殺けだし必要欠くべからずといふべき耶。