六月二九日、東京文部省にて、法理医文諸科において博士号を授かりし者三十許名、余の従弟浅川範彦もまた医学博士の号を授く。 範彦篤学衆に絶す、北里、後藤諸医伯夙に藻鑑する所あり。 その初て笈を負ふて東京に来るや、余が家に寓すること数月。 余これにいひて曰く、大丈夫既に一科の学に従事す、必ず一、二創見する所あり、以てその社会及び後世に賜賚するあるべし。 ニウトンの引力における、ラウオアジヱーの酸素における、正に赫々人耳目を照す者なり。 然らずしてただ書物にて学びたるのみにて、その頭脳中ただ古人の言語を記憶するに過ぎざれば、呉服屋の帳面と一般ならん、何の学士かこれあらん、何の博士かこれあらん、大丈夫一たびこの地球上に生る必ずこれに一大爪痕を印すべきのみと。 範彦深く以て然りと為す。 今回博士の学位を得たるは、正に細菌学について大に創見せし所ありしがためなり、果然範彦は呉服屋の帳面にあらず、呵々。